1.はじめに
最近、「知的財産権」という言葉が新聞、テレビなどで見聞きすることが多くなりました。農業系の新聞では、「外国から無断で国産の○○○と言う品種が大量に輸入されている」、あるいは「生産量の何倍もの魚沼産コシヒカリが出回っている」などの記事を見かけます。
優れた品種は誰もが作りたがります。その品種の権利を持っているといないでは収益に影響してきます。皆さんは品種を作るのは大変だと思っていることでしょう。実際、簡単なものではありません。でも、育成した品種の権利は自分のもの、それを守る姿勢が大事です。この場合、権利をどうやって守っていったらよいのでしょうか。その方法を考えてみましょう。
2.新しい品種を保護する法律
昭和二十二年に制定された「農産種苗法」に基づく「品種名称登録制度」で最初の法的保護が図られましたが、新品種育成者の権利としては、その名称を独占して用いることが出来るだけのものでした。
反面、その登録に当たっては実際栽培で、その種苗の優秀性、明らかな新規性が示されることが要件であったために、昭和五十三年に旧「種苗法」が制定されるまでの三十年間に登録になった品種数は極めて少ないものでした。その数は全体で217、そのうち花き類は69でした。
昭和五十三年、育成者の権利を尊重し、育種の振興を図ること、海外の優秀な種苗の導入を容易にすることを目指して、現「種苗法」の前身となる旧「種苗法」が、「農産種苗法」の全面改正により施行され、これに基づいて「品種登録制度」が創設されました。育成者に種苗の販売等に関する一切の独占権を認めたもので、画期的な出来事でした。
さらに、昭和五十七年にはUPOV(植物新品種保護国際条約)に加入するために改正が行われました。権利の強化が進む中で、種苗としての優秀性は全く問われず、もっぱら、区別性、安定性、新規性等の外見的要件を満たせばよい結果となりました。
UPOVでは平成三年に、バイテクの進歩、種苗の国際化に対応するため、育成者のより一層の権利強化を目的に条約の改正を行いました。それを受けて、国内法の整備が必要になり、平成十年十二月に全部改正され、現種苗法の施行につながりました。平成十四年末で、出願品種数は16000近く、登録品種数は約11000に達しています。登録品種の74%はいわゆる花き類です。
3.品種登録するのに必要な条件
(1) 植物の種類
旧法では、約400種類しか登録申請が出来ませんでしたが、新法ではキノコ(22種のみ指定)を含め、すべての植物となりました。何でもOKです。ただし、審査に当り、既存品種を参考に、その植物毎の諸特性を記載するための「種苗特性分類表」の作成がされていない植物の場合は、その表の作成に数年を要するため、登録まで出願後短くても四〜五年かかります。
(2)区別性
「品種登録出願前に日本国内または外国において、公然と知られた他の品種と特性の全部または一部によって明確に区別されること」。難しい言い回しですが、要は既存の品種と何らかの違いがないとだめですよということです。
植物の種類ごとに、区別性を明らかにするための特性項目が定められています。それは重要な形質に関わる特性、例えば花色、草丈、花の数、葉の形、開花期、葉の毛の有無等であり、少なくとも特性項目の一つ以上について、既存品種と明確に区別できることが必要です。
特性値は1〜9まで、最大9段階に階級分けされています。花色、葉の形などの質的な形質は必要に応じて想定される数まで、草丈、花数、茎の太さのような連続する量的形質はすべて9段階に階級分けされます。例えば、草丈では、極めて低い(1)〜普通(5)〜極めて高い(9)となります。
実際の運用に当たっては、種苗課の内規に照らして総合判断されているようです。一つの特性項目のみで顕著な差があれば、その特性値の差だけで登録される場合もあるでしょう。しかし、このような場合は稀で、二つないし四つの特性の差がみとめられたことで登録される例が多いようです。
葉の形、花色、花形などの特性項目は質的な形質に当り、その一つの項目のみ差異が認められても登録される可能性はあります。草丈、花数、茎の太さ、葉の長さ、開花期などの量的な形質の場合には、少なくとも一段階以上の特性値の差異が必要です。例えば良品種の階級値が4と6、あるいは5と8などです。
栽培者の育種選抜の特徴は、その品種を栽培してゆきたいことが中心になります。その特性が「特性分類表」に項目としてあれば問題ありませんが、往々にしてそこに記載がない項目のときがあります。しかも、その項目だけが唯一の区別性であるという場合は、本要件を満たしません。また、「特性分類表」に項目はあるが、その差が僅かである場合は当然本要件をみたしません。
ここで言う区別性とは、あくまでもある植物の既存品種を見渡して調査したときの形質の幅を、1〜9までに階級値に分けた場合の表に基づくということです。実際栽培上の見方では、第三者から見て、明らかに、開花期が異なる、大きさが異なる、数が異なるなどの品種の特徴があっても、区別性として認めてもらえない時がかなりあります。反対に、実際栽培上は、特に有用な特性でない項目で区別性が認められる場合もかなりあります。種苗法では、その区別性が認められた特性項目が、産業上有益である、価値があるかは問いません。
(3) 均一性
「同一の繁殖の段階に属する植物体のすべてが特性の全部において十分に類似していること」。これは圃場で栽培されている株のほとんどすべてが同じ形質を表していることを求めています。いわゆる揃いが良いということです。特に問題にされる点は、花色、開花期、草丈などで、特に花色は厳密に審査されます。
トリコギキョウの覆輪系品種は、遺伝的特性から100%同色とならないことが多いのですが、それでも95%程度の揃いが要求されているとみられます。ストックのオール八重品種では遺伝的特性から紫色の株などが若干生じますが、これは許される範囲となっています。このような例以外では、一般に、その出願品種は種子繁殖系植物であれば固定が十分でない、栄養繁殖系植物では芽条変異株の選抜が不十分とされます。さらに、一形質にとどまらず、複数の形質でこの様なことが生じた場合には、そこで審査は終わりとなります。審査官に「揃いが悪いですね」と言われたら、それまでです。出願料は返してもらえません。
(4) 安定性
「繰り返し繁殖させた後においても特性の全部が変化しないこと」。これはその品種から得られた(F1品種からの繁殖は除く)次世代以降の植物体が、親と同じ特性を毎年継続して表すことをもとめています。ある年だけでなく毎年同じ花が咲く、同じ実がなるということです。
単に単一年度で極めてよく揃っていても、それは「均一性」であり、繁殖後の特性の継続性が必要とされます。遺伝的同一性の年次変化を確認することにあります。
しかし、登録に当たって実施される現地調査、または公立試験場への委託試験に際しては、この条件が厳密に適用されることはほとんどありません。単年度において均一性が乏しかった際に、その均一性と安定性の確認を求めて調査が継続されることはあります。そもそも、そんな品種を登録申請することは恥ずかしいことです。入念に調べてから出願しましょう。
(5) 未譲渡性(新規性)
民法の言葉のようですね。これは育成されて時間が経ち、切り花、鉢花、収穫物、種苗などの形で既に流通していれば、新しい品種とは言えないということです。
この要件は旧法では出願前に上記のことが行われていた事実が明らかになった場合には、登録されることはありませんでしたが、新法では出願時から溯って一年以内(国内育成品種の場合)までは流通していてもOKとなりました。これにより、市場評価等を事前に判断してから出願できます。優れた品種だけ出願すればよいのです。
(6) 均一性
この項目は品種そのものの特性には関係しませんが、「商標登録」関係などの権利関係にかかわる部分ですので、細かく説明します。内容は禁止事項で、ダメダメ集です。
| ◇ |
一つの出願品種に複数の名称をつけた時。→→複数の名称があると識別が困難となるため→→不受理。例えば「千葉ホワイト」と「南総ホワイト」の併記などダメ。 |
| ◇ |
種苗または種苗と類似名商品について、登録商標と同一または類似の名称をつけた時。 |
| ◇ |
上記の内容に関する役務についての登録商標と同一または類似の名称をつけた時。→→商標の侵害となるため→→後日名称変更命令が出ます。例えば、既に「千葉ブルー」があるのに「千葉ブリリアントブルー」とつけた時、千葉グリーン(株)という既存造園業者が居るのに、千葉グリーンとつけた時などダメ。 |
| ◇ |
出願品種に関して誤解を生じさせる、識別について混同を生じさせる名称をつけた時。 →→品種名から一般に想定される特性と結果的に異なることを避けるため。例えば、白い花なのに「千葉レッド」、晩生品種なのに「千葉早生グリーン」、「桃太郎」とは遺伝的に全く関係ないのに「新桃太郎」などはダメ。 |